私の実家には築50年程の母家がありました。普段は殆ど使われていませんでしたが、唯一お正月とお盆には、家族が和室に集いました。その時、必ず確認してしまう一本の柱がありました。
私の実家には築50年程の母家がありました。普段は殆ど使われていませんでしたが、唯一お正月とお盆には、家族が和室に集いました。その時、必ず確認してしまう一本の柱がありました。
その柱には、私や弟達が描いただろうと思われる落書きや兄弟の背比べの跡が微かに残っていました。その跡を見ると子供の頃の想い出が蘇り、不思議と優しい気持ちになります。そして、年々薄くなっていく落書きに自分達の想い出までも消されていく様で、切なさも感じました。
築50年を経て、機能・性能等のスペックはほぼゼロと言えるこの家ですが、時として私を励まし、勇気づけてくれる家でした。
昨今の家づくりの判断基準の中心は、機能・性能となり、ひとの感情や感性に響く大切なものを見失っていると感じます。家づくりにおいて、物質的な要因も大切ですが、それと同じ位、大切にすることで家から思い掛けないものを得ることができると私は思います。
お客様方、皆さん、『家をつくろう』と考え始めた理由や、どんな家にしたいかは十人十色です。しかし、弊社のお客様に『どんな暮らしがしたいですか?』という質問をすると、『穏やかに暮らしたい』・『家族の笑顔が絶えない暮らしがしたい』という答えが圧倒的に多く、皆さんの最終目的は『幸せな暮らし』を求められています。
これから家づくりを始められる皆様にどうしてもお伝えしたい実話があります。
私が今まで経験した仕事の中で、A様の家づくりを通して極めて貴重な体験と学びを頂いた実話です。(掲載お客様了承済み)この実話により、急いでいた家づくりを冷静に考え、あなた様の家づくりが成功に導かれる切っ掛けとなれば幸いです。
A様がモデルハウスにご来場されたのは、息子さんが小学校入学までに家を建てたいという理由でした。当初ご主人からの質問の多くは、断熱性能、気密性能、耐震性能等であり、家の性能に強く関心があることが解りました。
その理由を伺うと、息子さんが自閉症であり、将来、自分達(親)が先に逝った時、残される息子さんのことを考えると、少しでも快適に住める家を残してあげたいという理由でした。
そのお話を伺って私は次の様な質問をしました。
『高気密高断熱の家に暮らせれば本当に息子さんは幸せになるのでしょうか?』
続けて次の様なことをお伝えしました。
(私)『家づくりにおいて、断熱性能・気密性能等は数値に表しやすく解りやすいと思います。それに対し外観デザインや間取りは数値には出来ません。ひとは懐かしさを感じるものを見れば優しく温かい気持ちになります。又、開放的な間取りにすれば、子供たちの微かな変化もさり気無く感じることもできます。残念ながら、それらの要素は数値では表すことができません』
『息子さんのことを考え、家を資産価値の視点で考えた場合、将来少しでも高値で売却若しくは、高値で貸せる様な家にした方が、息子さんは嬉しいのではないでしょうか?』
『又、家を精神的な効用で考えた場合、お友達が遊びに来たくなる素敵な家にすることが息子さんにとって嬉しいのではありませんか?息子さんが毎日笑って暮らせる家こそがA様の本当につくりたい家だと思いますが、如何でしょうか?』と。
2度目にお会いした際、A様が息子さんのことを話してくれました。
(A様)『今度小学校にあがる息子ですが、市の教育委員会からは、養護学校に通うことを勧められています。親としては、出来れば小学校の特殊学級に通わせてやりたいと思っております。しかし、例え、小学校に入学出来ても障害を持つ息子が学校で虐められないだろうか?健常者の娘も障害を持つ弟がいるという理由で虐められるのではないかと心配しています』
数回お会いし、間もなくA様より設計依頼がありました。設計のヒアリングを終えたデザイナーは、打ち合わせの際、A様からの依頼を噛み締める様に話してくれました。
(デザイナー)『A様は自閉症の弟を持つ娘はこれから先、引け目を感じたり、自信を無くしたりすることもあると思ってみえます。親としてそんな娘に対し、家だけでも自信を持てる様にしてやりたいと。出来れば、息子や娘の学校の子たちが大勢遊びに来てくれて、沢山のお友達が出来る様な格好いい家にして下さいと希望されました』
この話を聞いたスタッフ、現場監督、職人たちチームメンバーは、デザイナー同様、職人魂に火を燈されたと思います。コーディネーターも息子さんが少しでも家の中で穏やかに暮らせることが出来る様にと、色が真理的に及ぼす効果を熱心に調査してくれました。
引渡しの際、A様の奥様と共にコーディネーターも感極まり涙し、 後にコーディネーターは、『これほどまでに感動した仕事は初めてでした』と話してくれました。
A様が新居に入居され間もなくして、コーディネーターに一通のメールが届きました。そこには次の様なことが書かれていました。(掲載許可済。但し、お子様名前はプライバシーの保護の為、仮名とさせて頂きます)
美穂と翔は、片道30分の通学路を頑張って歩いています。美穂は、学校は、楽しいと言っています。
翔は、教室ではまだまだ大変ですが、まわりの子供たちが結構やさしくて、『あ、翔君だ』と声をかけてくれたり、翔のランドセルを持ってくれたり、翔も自分から、同じ通学団の優しいおにいちゃんの手をにぎろうと、手をのばして、その子も、それに応じて、手を握り返してくれたりと、いいこといっぱいです。
先日も、通学路の帰り道、同じ学年の子、4人で帰っていたときのこと、ほかの三人の子が、たんぽぽの綿ぼうしをとって、『ふぅ~』と、綿毛をとばしていたり、翔に『ふぅ~』とさせてくれたり・・・そして翔が自分から、綿帽子を取って、『ふぅ~』としたことに感動・・・。こんな光景を見ると地元の小学校に入れて、よかったなぁと、思いました。
翔は、自分の家が見えると、急に走り出します!!自分の居場所と思っているみたいで、嬉しいです。帰ってくると笑顔が多いです。学校で色々と我慢しているからでしょうね。
A様が入居され1年を経て、私が定期点検に伺った際、奥様は、素敵な家だと、直ぐに沢山のお友達が遊びに来てくれる様になりましたと笑顔でお話してくれました。
私が二度目の訪問の際、ご主人に『家づくりをしようと思った切っ掛けは何ですか?』と聞いてみると次の様にお話してくれました。
『息子のことで家族が暗くなり、何か大きなイベントをしないとこのままでは家族が駄目になってしまうんじゃないかと思いました』と。その話を私と一緒に聞いていた奥様が『そうだったの?』と初めてご主人の想いを聞かされた様でした。
奥様はご主人の家族に対する深い愛情を強く感じたことだと思います。
私の小学生時代からの友人の息子さんも自閉症です。友人は昔から楽天的な性格で大変そうな素振りは殆ど見せませんが、時折、友人から聞く想像を遥かに超えた出来事を聞く度、家族の大変さを痛烈に感じます。その話を聞いていた為、翔君が通学団のお兄ちゃんに手を引かれながら学校へ向かう後ろ姿がA様ご夫婦にとってどんなにうれしかったかが想像できます。おそらくご夫婦で涙されたことでしょう。
米国の人々は『家とは最高の人生を送る為のかけがえのないもの』と考えているそうです。家の耐震性・断熱性はどんな家であろうと一定水準を満たし、安全で快適に暮らせることは当たり前のことであり、突出した性能よりも、暮らす家族の人生の豊かさ(心の充足)の実現の為に家を持つことを真剣に考えています。
そして私はA様の家づくりをするまでは、『人は人との繋がりや絆でしかこころの充足感は得られない』と強く思っておりました。よって、我々が家づくりで心の充足をお客様に提供することは不可能だと考えていました。
A様の家づくりを通じて、物づくりがこころの豊かさに変わった貴重な瞬間を経験させて頂きました。それは家づくりの真髄を感じた瞬間でもありました。そして、この貴重な経験から安城建築のミッションを感じました。
『安城建築の取り組みの全ては、お客様と関わるメンバーの心の充足へと繋げて行くことが使命である』と。
これから家づくりをされるあなた様には、是非とも『心の充足に繋がる家づくり』を実現して欲しいと願います。