佐々岡の引退試合で感動し、8年程前の感動体験を思い出した。
それはデルタ航空での名古屋からポートランドまでのフライト。
搭乗した際、既に機内では映画が始まっていた。「いつもは離陸した後に始まるのに・・・?」その映画は、結婚式での新郎新婦の生い立ちを映し出している様にある人の人生を映し出していた。暫くして機内放送によりその意味がわかった。
この映画の主人公は、なんとこの機の機長であり、今回のフライトが機長のラストフライトだという。そしてお孫さん始め家族が搭乗しているとアナウンスがあった。勿論この様なラストフライトに遭遇したのは初めての経験であり、いつもとは全く違う感情の高ぶりがあった。
水平飛行になると、可愛い機長のお孫さんが乗客全員に「おじいさんのラストフライトに搭乗してくれてありがとう」キャンディを配ってくれた。正直いってこれにはやられた。
そして、いよいよポートランド国際空港への着陸態勢に入る。多分、私同様乗客全員が機長の思いを共有していたであろう。人生最後の着陸。操縦桿を握る機長の緊張感がストレートに私にも伝わって来る。乗客全員が息を呑んだ。
その着陸のその瞬間、私が今までに経験した百数十回のフライト体験のなかで最高の着陸であり、いつ車輪が滑走路に着いたかが分からなかった程の神業的な着陸だった。全車輪が滑走路に着くと乗客全員から割れんばかりの拍手が巻き起こり、感動して涙する人さえも居た。
搭乗ブリッジが機体に寄せられドアが開く。搭乗口には機長を始め家族が一列に並んで乗客にお礼を伝えていた。私が「best landing!! I am very exciting」と伝えると、機長は満面の笑顔になった。この様な実に貴重且つ感動する経験ができたことに感謝している。
帰国後、新幹線に乗車すると時折思うことがある。これだけ新幹線が走っていれば、今日この列車の運転士ももしかしたら退職の日かもしれないと。感動を得ることが極端に少なくなった今、ひとは日々の暮らしのなかで感動体験を待っているに違いない。
もし、新幹線のアナウンスで、「本日の運転手○○はこの列車を最後に退職致します」なんてアナウンスがあったら・・・乗客がひとつになり、多くに感動を与えてあげられると思う。
創業昭和四年 安城建築 浅井宏充