海外研修を終えて・・・

海外研修では、多くのことを学ぶことが出来た。それは、日本で洋書を見ているだけでは学び切れないことであったと思う。約三日間の滞在で直接自分の目で確かめ、現地ガイドの生の声を聞いて学んだことを三つに分けると以下のようになる。

1・ 目に映るものの多くがデザインされ美しさを感じるようになっている。
2・ 個人住宅、街づくりが資産形成の視点で考えられている。
3・ 住宅デザインは、飽きの来ない、時代が変わっても通用するものとなっている。

この3つについて、それぞれに報告したい。

《その1.目に映るものの多くがデザインされていて美しさを感じるようになっている。》

個人住宅に限らず有形のものの多くがデザインを考えて作られている。
それは、道路横の歩道やそこに造られた植栽、横断歩道の歩行者用ボタン、街灯にはじまり、ショッピングモールの中にある案内塔、噴水、休憩用のテーブルや椅子、花の植えられた鉢植えなど、目に映るありとあらゆるものがデザインされている。しかもそのデザインは直線的で無機質なものではなく曲線で温かさ、やさしさを感じるものである。

最初に見学したユニバーシティーのショッピングモールは、平日というのに昼間から満車状態であった。ガイドさんから地元でもとても人気のある所と聞いた。人が集まる理由は「心地良さ」にあるという。私も、もっとここにいたい、また来たいと思った。そう思わせるものは、やはり「心地良さ」だと思う。その心地良さはどこから来ているのかと考えると、目に映るものの多くが温かさ、やさしさを感じるデザインになっているからだと思えた。

《その2. 個人住宅、街づくりが資産形成の視点で考えられている。》

これは驚きの話である。米国では家と土地を一つの資産と考えていて、購入した家は時を経過することで価値、つまり価格が下がるとは考えていない。逆に手に入れた家、土地に手をかけてより良くすることで価格は上昇するのである。

実際にガイドさんは中古住宅で買った家に7年住んだ後、買った時よりも800万円高い金額で売ったそうである。
そのためには、リモデリングをしてグレードアップさせること、住宅地の人気が高まること、ライフラインが整備されること、物価が上昇することなどが関係する。日本の住宅文化では考えられないことだ。

米国では住宅の価値に対して経過年数は影響しない。その証拠として中古住宅の情報誌に築年数は表示されていない。事実100年経過した住宅が庭も含めて、維持管理がきちっとされていれば新築住宅と変わらない高い評価を受けている。これは所有者にとっては、とても大きなことである。

3000万円で買った家が日本では20年も経てばタダ同然。しかし、価値が下がらず3000万円だったとしたら人生が違ってくる。20年後、30年後、その家を売って3000万円で次の人生を再スタートすることが出来る。また、家の評価額に対して75%の範囲で金融機関から融資を受けられる。3000万円の評価額であれば2250万円までお金を借りられるのである。もし仮に現金がなくなったら家を担保に現金が手に入るわけである。家の価値が落ちないということは所有者の人生を左右すると言える。

そして、資産形成は個人住宅にとどまらず街全体に通じている。景観を壊すような広告看板も少ない、電線は地中に埋められ、住宅街は花、木々で緑豊かである。魅力のある街づくりが個人の資産形成をさらに高める。この他にも日本の住宅文化と異なる点は多々あるが、米国の人々が自分の家、そして自分の住んでいる街を大切に考える理由はここにある。自分の大切な資産を守るということである。

ガイドさんが言った印象に残る言葉がある。
『日本は家を買って資産を失う、米国は買った家を資産として守る。』

《その3. 住宅デザインは飽きの来ない、時代が変わっても通用するものとなっている。》

米国に建っている住宅の多くはクラシックデザインである。最近建てられたものの中にはモダンなデザインのものもあるが、全体で見ればごく僅かである。100年前に建てられた住宅とここ20年くらい前に建てられた住宅を比較すると、装飾の使われ方が少なくなっていると感じるが、見たときの印象はほとんど変わらない。おそらく基本的なデザインが変わらないからだと思う。

視察中、築110年の住宅のリモデリングをした住宅を見学する機会があった。外観は当時のままで、室内を少しモダン調にしてあったが、違和感はまったく無かった。他にもリモデリングをした住宅を4件見学したが、どれも50年以上前に建てられたものだが古さはまったく感じない、むしろ「こんな家に住んでみたい」と思える魅力があった。当然外観デザインはクラシックである。50年から100年前に建てられた住宅を見て古さを感じないのは、飽きないデザインだからである。

私は車が好きなので、たまたま見つけた古い車の写真集を買った。掲載されている車は1930年代のものが中心でクラシックカーの領域の名車である。当時の写真が何枚も掲載されていたが背景に写っている住宅は、今回シアトルで見かけた住宅と同じであった。車はこの80年の間にまったく変わってしまっているが、住宅のデザインの基本は変わっていない。米国では住宅の資産価値が下がらないと考える背景には、飽きないデザインということが大きくかかわっているのだと思う。

米国の住宅文化の最も見習うべき点は、住宅を個人の資産形成と考えていることにある。米国の人々は、一生のうちにライフスタイルに応じて4~5回住み替えるそうである。日本のように借金の繰り返しではなく、住んでいる家を高く売って次の住まいを手に入れることで人生を豊かなものにして行く。背景にあるのは個人住宅、都市計画による街づくりを含めた豊かな住宅文化を築くシステムにある。

家を手に入れて資産を失うのではなく、資産を得る住宅文化が日本でも根付くように、ホームビルダーとしての役割を今後も続けて行きたい。

創業昭和四年 安城建築 浅井宏充